BLOG ブログ

個人事業者の青色申告

 個人事業者のうち、青色申告の承認を受けた場合は青色申告を行うことができます。
 この青色申告についてまとめてみます。

青色申告の制度

青色申告の制度は所得税法143条に規定されています。

(青色申告)
第百四十三条 不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行なう居住者は、納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合には、確定申告書及び当該申告書に係る修正申告書を青色の申告書により提出することができる。


 所得の種類が限定されています。不動産所得、事業所得、山林所得がある場合のみです。
 給料をもらっている(給与所得)、株の配当をもらっている(配当所得)、株を売買している(譲渡所得など)というだけの場合は駄目です。

 また、給与所得者(サラリーマンなど給与をもらっている人)が副業をやっている場合は、原則として事業所得ではなく雑所得として扱われるので対象外です。

青色申告の特典

 なんとなく青色申告を勧められるけれども、どんな特典があるのか分からないと言う方もいらっしゃいますね。
 青色申告の特典は次のものです。

  • 所得税法52条 貸倒引当金が計上できる

  • 所得税法57条 青色事業専従者への給与が必要経費になる

  • 所得税法70条 損失が3年繰越せる

  • 租税特別措置法25条の2 1項 所得から最大10万円控除できる

  • 同3項 不動産所得か事業所得を事業として行っていて、ちゃんとした帳簿を作れば上の10万円ではなく最大55万円控除できる

  • 同4項 3項の場合でさらに帳簿等を電子保存しているか電子申告をするなら最大65万円控除できる


 4項に該当するときに10万円+55万円+65万円ではないので注意してください。10万円(55万円)の代わりに最大で65万円です。
 また、所得が控除額より少ないときは所得が限度ですので、所得がマイナスにはなりません。

 一番の目玉は、所得から控除できる10万円(55万円、65万円)ですね。お金が出ていかない経費を計上できるということです。

 次は配偶者や家族に対する給料が経費になるというところです。え?普通ならないの?と思う方もいらっしゃるでしょう。そうです、普通はならないんです。事業者自身の給料というのはそもそもが所得税では存在していませんので青色申告にしても経費にはなりません、念のため。

 その次にお得感があるのは、3年間の損失の繰越でしょう。今年30万円の利益(所得)が出たとしても、前の年に20万円の赤字(損失)があれば、30万円-20万円=10万円を今年の所得として所得税の計算ができます。

 法律上の特典以外にも、銀行や取引先から確定申告書の提示を求められることがあると思いますが、その際の信用度も青色申告の方が白色(青色申告でないものを白色といいます)よりも高くなります。

なんで青色申告っていうの?

 そもそも上の青色申告を定義している143条に書いてある文章で気になりませんでしたか、『青色の申告書』という文言。
 青色申告をしている方でも、え?普通の白い紙で出してるけど?違法?青色じゃない取り扱いされる?と思われた方がいるのではないでしょうか。

 平成12年分の申告までは本当に青い紙でした。平成13年分の申告に合わせてOCRに対応した新様式になった際に白地の紙になりました。青色申告決算書の枠や文字が青(緑)なのはかつての青色申告の名残りでしょうね。
 法律的には『青色の申告書により提出することができる』とあるので、『権利』として青色で出してもいいとは思います。税務署で揉めるかもしれませんが。法律を早く変えた方がいいですよね。

青色申告をしたいときの手続

 この青色申告を行うためには手続きが必要です。

(青色申告の承認の申請)
第百四十四条 その年分以後の各年分の所得税につき前条の承認を受けようとする居住者は、その年三月十五日まで(その年一月十六日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その業務を開始した日から二月以内)に、当該業務に係る所得の種類その他財務省令で定める事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。


 『承認の申請』とあるように、書類を出せばオッケー、なのではなく、お願い(申請)を納税地の税務署長にして、税務署長が認めたら(承認)適用することができます。

 承認されるかされないか気になりますね。承認されない場合というのはどういう場合でしょうか。
 それは、帳簿書類の備付け、記録又は保存ができていない場合、帳簿に嘘の記載がある場合、青色を取消されたり、自分で取りやめの届を出してから1年以内の場合です。

青色申告の申請が認められたかどうか

 青色申告の承認申請をした場合、承認されたという通知は来ません。

(青色申告の承認があつたものとみなす場合)
第百四十七条 第百四十四条(青色申告の承認の申請)の申請書の提出があつた場合において、その年分以後の各年分の所得税につき第百四十三条(青色申告)の承認を受けようとする年の十二月三十一日(その年十一月一日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その年の翌年二月十五日)までにその申請につき承認又は却下の処分がなかつたときは、その日においてその承認があつたものとみなす。


 申請書を提出した年末(11月1日以降に提出した場合は翌年2月15日)までに税務署から何も通知が来なかったら(却下の通知が来なかったら)認められたということになります。

青色申告の承認がもらえない場合もある

 青色申告は上記の通り、あくまでも税務署長にお願いをして認められた場合に適用になりますので、青色申告できない場合もあります。

(青色申告の承認申請の却下)
第百四十五条 税務署長は、前条の申請書の提出があつた場合において、その申請書を提出した居住者につき次の各号のいずれかに該当する事実があるときは、その申請を却下することができる。
一 その年分以後の各年分の所得税につき第百四十三条(青色申告)の承認を受けようとする年における同条に規定する業務に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が第百四十八条第一項(青色申告者の帳簿書類)に規定する財務省令で定めるところに従つて行なわれていないこと。
二 その備え付ける前号に規定する帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録していることその他不実の記載又は記録があると認められる相当の理由があること。
三 第百五十条第二項(青色申告の承認の取消し)の規定による通知を受け、又は第百五十一条第一項(青色申告の取りやめ)に規定する届出書の提出をした日以後一年以内にその申請書を提出したこと。


 ハードルは高くないです。承認前に帳簿書類がちゃんとできているかの審査があるわけではありません。ちゃんとやります、こんな帳簿を作ります、という自己申告を基本的に税務署長は信じます。

いったん認められた青色申告の承認が取り消される場合もある

 いったん認められた青色申告の承認が取り消される場合もあります。

(青色申告の承認の取消し)
第百五十条 第百四十三条(青色申告)の承認を受けた居住者につき次の各号のいずれかに該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に掲げる年までさかのぼつて、その承認を取り消すことができる。この場合において、その取消しがあつたときは、その居住者の当該年分以後の各年分の所得税につき提出したその承認に係る青色申告書は、青色申告書以外の申告書とみなす。
一 その年における第百四十三条に規定する業務に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が第百四十八条第一項(青色申告者の帳簿書類)に規定する財務省令で定めるところに従つて行なわれていないこと。 その年
二 その年における前号に規定する帳簿書類について第百四十八条第二項の規定による税務署長の指示に従わなかつたこと。 その年
三 その年における第一号に規定する帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること。 その年
2 税務署長は、前項の規定による取消しの処分をする場合には、同項の居住者に対し、書面によりその旨を通知する。この場合において、その書面には、その取消しの処分の基因となつた事実が同項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない。


 ちゃんとした帳簿がないとバレたとき、帳簿に嘘を書いていると判断されたときなどです。
 不正があった時まで遡って取り消されます。

 法律ではなく、国税内での指針としてこういうのもあります。

国税庁/個人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)


 税務調査の際に、帳簿を見せない場合などです。
 これは、法律上は『帳簿書類の備付け、記録又は保存』が青色申告の要件で、税務署長がこの取り消しをする要件も『帳簿書類の備付け、記録又は保存』がされていないという書き方のため、『帳簿書類の備付け、記録又は保存』はしているけれども税務調査の際に見せない、ということで争いになったので、法律に明記されるまでの間、国税内での取り決めとして記しているのだと思います。

国税不服審判所/昭和51年6月15日裁決


 備付け、記録又は保存をしていても提示しないなら備付け、記録又は保存がないのと同じ、ということです。

青色申告をするための申請書はいつ出せばいいか

 事業を開始した年から青色申告をしたければ、開業した年の翌年3月15日(最初の確定申告期限)までに所得税の青色申告承認申請書を提出します。

 これまで白色で申告していて、新たに青色で申告したければ、3月15日までに申請書を提出すると、提出した年分の申告から青色申告ができます。間違えないようにしないといけないのは、X年に申請をした場合はX年分の申告からなのでX+1年の3月15日までに提出する申告書からの適用になります。

青色申告の条件である帳簿とは

 所得税法では直接的には定めておらず、所得税法施行規則で定められています。

所得税法施行規則
(青色申告者の備え付けるべき帳簿書類)
第五十六条 青色申告者(法第百四十三条(青色申告)の承認を受けている居住者をいう。以下この節において同じ。)は、法第百四十八条第一項(青色申告者の帳簿書類)の規定により、その不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務につき備え付ける帳簿書類については、次条から第六十四条まで(青色申告者の帳簿書類の備付け等)に定めるところによらなければならない。ただし、当該帳簿書類については、次条から第五十九条まで(青色申告者の帳簿書類)、第六十一条(貸借対照表及び損益計算書)及び第六十四条(帳簿書類の記載事項等の省略又は変更)の規定に定めるところに代えて、財務大臣の定める簡易な記録の方法及び記載事項によることができる。


 主な要件としては、

  • 57条 貸借対照表と損益計算書を作成する

  • 58条 複式簿記による仕訳帳と総勘定元帳を作成する

  • 59条 取引の年月日、内容、勘定科目及び金額を記載

  • 60条 決算時には特別な処理をしなければならない


となっています。

 複式簿記による帳簿は手書きではかなり面倒です。
 会計ソフトを使うことをお勧めします。

 白色は記帳しなくていい、青色にすると記帳しないといけないので面倒だから白色のままでいい、と思っている方が多いのですが、白色申告でも記帳と帳簿書類の保存が必要です。

第二百三十二条 その年において不動産所得、事業所得若しくは山林所得を生ずべき業務を行う居住者又は第百六十四条第一項各号(非居住者に対する課税の方法)に定める国内源泉所得に係るこれらの業務を行う非居住者(青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている者を除く。)は、財務省令で定めるところにより、帳簿を備え付けてこれにこれらの所得を生ずべき業務に係るその年の取引(恒久的施設を有する非居住者にあつては、第百六十一条第一項第一号(国内源泉所得)に規定する内部取引に該当するものを含む。)のうち総収入金額及び必要経費に関する事項を財務省令で定める簡易な方法により記録し、かつ、当該帳簿(その年においてこれらの業務に関して作成したその他の帳簿及びこれらの業務に関して作成し、又は受領した財務省令で定める書類を含む。次項において同じ。)を保存しなければならない。


 白色と青色の大きな違いは資産、負債を示す貸借対照表を作るか作らないか、です。
 具体的に言うと、事業用の現金、事業用の預金、償却資産、売掛金、買掛金、未払金、借入金などの年末残高を記載するかどうかという違いです。

 それならできそうじゃありませんか?
 特に会計ソフトを使うなら意識しなくても貸借対照表はできますので、あえて白色のままにしておく理由はないでしょう。
 でも、取引が少ないので会計ソフトを買うのももったいないし、手書きで複式簿記は意味が分からない、という方も多いでしょう。
 その場合は、所得税法施行規則56条の『簡易な記録の方法及び記載事項』により、それぞれの科目ごとに集計表を作る方法で記帳することで10万円の控除はできます。

青色申告の10万円と55万円の壁

 青色申告できるのは、不動産所得、事業所得、山林所得の3つに限られています。
 これらの所得で税務署長の承認を受ければ10万円の控除ができます。

 次の段階である55万円の控除ができるかどうかは、『不動産所得又は事業所得を生ずべき事業』であることが前提になります。山林所得はまず脱落ですね。次は『事業』という言葉がキーワードになります。

 事業所得は事業所得である限りすべて『事業』に該当します。
 不動産所得は『事業』かどうかの判断が必要です。え?『事業』じゃなかったら何?と思いますね。
 上の『青色申告の制度』の143条を見てください。『業務を行う』という文言があります。業務<事業、ということでここに10万円控除と55万円控除の壁があります。
 では、この壁を見てみましょう。

国税庁/タックスアンサー/所得税

No.1373 事業としての不動産貸付けとの区分


 ギョーカイで『5棟10室基準』と言われているものです。
 建物丸ごと持っている場合は5棟以上、マンションなど区分所有の部屋を持っている場合は10部屋以上であれば事業規模と認めるというものです。
 この基準は、これを満たしていなければ事業規模と認めないという絶対的な最低限の基準としての例示ではなく、逆に、これさえ満たしていれば事業規模と認めるという基準です。

 では、実際にはどうなのか。
 これがとても曖昧な表現のため、納税者と国税が揉める原因となることがあります。

 年間の不動産収入が1500万円でも事業規模ではないという国税不服審判所の裁決があります。(平19.12.4、裁決事例集No.74 37頁)
 普通に考えたら、それだけの収入があるなら生活できるじゃないの、なんで事業じゃないの?となりますね。

 国としては、事業所得と同様に、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における事業遂行性の有無、取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、取引の目的、事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断する、としています。

国税不服審判所/(平19.12.4、裁決事例集No.74 37頁) 別紙2


 ざっくり言うと、収入よりも、その収入のためにどれだけ労力を使ったかということに着目しているようです。

 でも、曖昧ですよね。

 事業所得の場合は、業務か事業かの判断はありません。
 不動産所得と事業所得のこの判断の差は腑に落ちません。

 事業所得に該当するかしないかという争い自体は存在しますし、その時に事業所得の定義が細かく示されてはいます。

 『事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得』

東京高等裁判所 昭和50(行コ)21 昭和51年10月18日


 しかし、一般的に事業所得で申告をした際に65万円控除が認められないということは、あまり聞きません。明らかに悪いことをしているときには別ですが。

 青色申告できるかどうかは所得ごとの判定ではないので、青色申告の承認を受けた場合に不動産所得と事業所得があるときは、不動産所得が事業規模でなくても結果的に55万円(65万円)の控除が受けられます。
 アパートを3室貸して、その収入で生活している人は10万円控除しかできず、年間で数十万円の事業所得の人は55万円(65万円)控除できるのは変です。

終わりに

 いかがでしょうか。
 今は、会計ソフトも安価ですし、会計ソフトを使うならば55万の控除の要件である複式簿記による帳簿も自動的にできますから青色申告にしない理由はないのではないでしょうか。

 どういうときにどの科目を使うのか、どの画面で入力すればいいのか、といった会計ソフトの最初の設定と運用の流れさえできれば、あとは簡単なはずです。

 当方では、弥生会計を導入している方へは最初の登録を行って当方とデータ共有できるように設定をした上で、毎月の会計処理の修正等を行います。
 関与契約なしで最初の設定と使い方の説明だけやってくれ、という依頼は現在のところ受け付けておりません。