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免税事業者は消費税等を取ってはいけないのか

 今年令和5(2023)年10月より開始されるインボイス制度を前に、私たち税理士に対しても消費税関係の研修が数多く行われています。

 その研修の中で、免税事業者なのに消費税等を加算した金額を請求するのはおかしい、というようなことを複数の消費税の権威の先生方がおっしゃっています。

 不思議でなりません。
 なぜ免税事業者は消費税等を加算して請求してはいけないのでしょうか。

 途中ですが、消費税『等』と書いているのは、厳密には国税である消費税のほかに平成9年以降は地方消費税が一緒に課税されているからです。ちなみに、『消費税10%』と聞いて、いや、消費税は7.8%で地方消費税2.2%と合わせて10%だよ、と突っ込むのは税理士あるあるです。こんなこと言ってたらモテないですね。

税金の根拠

 話を戻します。

 そもそも、税金はなぜ取られるのかというお話から。免税事業者うんぬんの話は後からやりますのでここではさらっと流してください。

 大前提として日本国民は憲法により自由を保障されています。ただし、3つの義務が課されています。
 教育を受けさせる義務(26条)、勤労の義務(27条)、そして納税の義務(30条)です。
 大雑把に言えば、これ以外は権力者が勝手なことをしないように権力者に対して制限をしているのが憲法です。
憲法30条
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。

 そして、この納税については、時の権力者が好き勝手に徴収できないよう、法律に基づかないといけないことも憲法で定められています。
 権力者から国民を守るためです。
憲法第84条
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

 法律は国民の代表である国会議員が立法機関である国会で決定します。
 つまり、国民が自分たちで作った法律によってしか納税を強制されないことになっています。政治家が好き放題に税金を取っているのではなく、国民が選んだ国会議員が決めているんです。
 税金のことで政治家や税務署や税理士に文句を言うのはお門違いです。
 話が逸れましたね。

消費税等の根拠

 この税に関する法律の一つが消費税法です。
消費税法4条1項
国内において事業者が行つた資産の譲渡等(略)及び特定仕入れ(略)には、この法律により、消費税を課する。

 事業者が商品を販売したりサービスを提供した場合には、消費税を課税することが決められています。
 上記の通り、税は法律によってしか課すことはできませんので、その事業者が自分の判断で消費税等を取るかどうかを決めることはできません。

 ところで消費税等は誰が払っているのでしょうか。皆さんは消費税等を納税していますか。
消費税法5条1項
事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等(略)及び特定課税仕入れ(略)につき、この法律により、消費税を納める義務がある

 事業者に納税義務があると書いています。事業者に対する税金でしょうか。
 いえ、消費税等は『消費者が負担し事業者が納付』する税です。

参考)

国税庁/「暮らしの税情報」(令和4年度版)消費税のしくみ



 簡単な例です。分かりやすく図を入れたいのですが、そういった能力がないので文字だけで説明します。

 A社は、100円の商品について消費税等を加算して110円でB社に販売します。
 B社は、商品自体の金額である100円に20円の利益を乗せて販売価格120円に消費税等12円を加算して132円で消費者に販売します。

 A社は、B社から受け取った消費税等10円を納税します。
 B社は、消費者から受け取った消費税等12円から仕入れるときに仕入先A社に払っている10円の消費税等を差し引いた2円を納税します。
 A社とB社の納税した消費税等は、A社10円、B社2円の合計12円になります。これは、消費者が支払った消費税等12円と一致します。

 これが、消費税の仕組みです。
 消費者が消費税等として支払った金額が、A社、B社を通じて国に納付されていますし、事業者は納税はしていますが事業者自身の手出しはありません。

消費税等の免税事業者

 ところが、この仕組みに例外があります。
 ここで免税事業者の話が出てきます。
消費税法9条1項
事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 これによって、B社が免税事業者の場合、消費者が支払った消費税等12円のうち2円が国等に納付されず、そのままB社の手元に残り(懐に入り)ます。これが『益税』として批判されていました。
 確かに、免税事業者が途中に入ると消費税の本来の仕組みとしては成り立たなくなってしまいます。

 でも、免税事業者というのは1年間の売上高が1千万円以下の事業者です。業種により差はありますが、いずれにしても仕入や経費を差し引いた利益はそれほど多くはなく、預かっていた消費税等も最大で90万円程度です。
 そして、仕入れたときには最終消費者ではないのに消費税等を仕入先に支払っています。
 上の例で言うと、消費者が払った消費税等12円をB社が丸々自分の懐に入れているのではなく、仕入時に(消費者の代わりに)10円を払っており、2円だけを懐に入れているのです。
 懐に入れているという言い方がアレですが。

富の再分配

 税により徴収したものを社会保障制度を通じて分配することで、富める者だけが富み、貧しき者は貧しいままという状況を変化させるための富の再分配がなされます。
 場合によっては、税の徴収の部分ですでに富の再分配(調整)を行なうこともあります。
 所得税での扶養控除や障がい者控除、最近では配偶者控除や基礎控除も所得によって差があるので富の再分配をしていることになりますね。

 よって、年間の売上(利益ではない)が1千万円以下の事業者の免税制度も同様の富の再分配の措置であって、批判されるようなことではないと思います。税として取ってから社会保障として分配する手間を省いていると言えます。

 税を取るかどうかについては事業者が決めることではないことは先に説明した通りです。
 平成26年に消費税等が5%から8%に増税されたときにできた『消費税転嫁対策特別措置法』によってもはっきりと説明されています。

内閣官房、内閣府、公正取引委員会、消費者庁、財務省、経済産業省、中小企業庁共同作成パンフレット

消費税の円滑かつ適正な転嫁のために



 この『3 小売事業者による宣伝・広告』の中で、『消費税は最終的に消費者が負担するもの』なので、
『消費税を転嫁していないので、価格が安くなっています』
『消費税はいただきません』
などの文言は禁止と明記されています。

 免税事業者だから消費税等を徴収しないという判断を事業者はしてはいけません、できません。

まとめ

 以上をまとめると、

  • 制度として消費税等はその事業者が課税事業者であろうが免税事業者であろうが関係なく、本来の価格に消費税等を加算して消費者に販売・提供することになっている
  • 免税事業者は、法律上合法に納税しなくて良いことになっているが、それは消費者から消費税等を徴収するかどうかということとは全く別の話である
  • 免税事業者はそもそもが所得が少ない事業者であり、消費税等を納めないことでボロ儲けをしている訳ではない
  • 免税事業者は消費税等を直接納めない代わりに、消費者が負担すべき消費税等の一部を仕入等の際に支払っている

 ということで、なぜ消費税の専門家の方々が免税事業者は消費税等を取るべきではないとおっしゃっているのか分かりません。